最高検の内部調査結果公表

最高検の内部調査結果公表

2023年12月25日 【 お知らせ

 2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、東京地検特捜部の検事が元広島市議に不起訴を示唆して供述を誘導したとされる問題で、最高検が2023年12月25日、取り調べの手法が不適正だったとする調査結果を公表しました。上司ら検察幹部の関与は認められないとして組織性は否定し、2人の検事については、捜査などの手法改善を求める「指導」を行いました。

 供述の誘導があったと訴えているのは、元法相の河井克行元衆院議員から現金30万円を受領したとして公職選挙法違反(被買収)に問われた元広島市議の城戸経康彦被告(一審で罰金15万円の有罪、控訴中)が、2020年3月から6月に特捜部の任意聴取を受け、被買収容疑を認めたものの不起訴になりました。しかし、検察審査会の「起訴相当」決議を受け、検察当局が一転して起訴したものです。

 元市議は特捜部検事による事情聴取の一部をひそかに録音していました。録音には検事が「議員を続けていただきたい。」「克行を悪者にする。」「不起訴やなるべく軽い処分にしたい」などと持ちかけるやりとりが記録されていたとされています。元市議側は、「容疑を認めれば起訴されず、議員が続けられると思った。」とし、検事の取り調べは違法な利益誘導だと主張していました。

 選挙運動の買収行為は密室で行われることが多く、金品の授受の状況やその意図については、本人の供述が重視されがちとなります。しかし、捜査官が一方の当事者に利益誘導して供述を引き出すことは、真実を歪めることになり許されません。

 自供すれば起訴猶予になるという趣旨の検事の言葉を信じて容疑者が自白した例で、その任意性を疑い証拠能力を否定した最高裁の判例もあります。本件で、検事が具体的にどのような発言をしたかまでは明らかになっていませんが、「不起訴の約束」と受け止められる表現があったのであれば、極めて不適切であったと言えます。

 

 この点、一審の広島地方裁判所は、令和5年10月26日判決で、被告が主張した東京地検特捜部検事の「供述誘導」について「検察官が不起訴を前提として取り調べたことは否定できない」と指摘しました。被告は、不起訴を約束した捜査による違法な起訴だと訴え、公訴棄却を求めていました。裁判長は「被告も不起訴を期待して検察官の意に沿う供述をした」と言及しましたが、「公訴棄却をすべきほどの違法性はない」と結論づけました。

 また、「元法相に渡された物が現金とは思っておらず、買収の趣旨も認識していなかった」との被告の無罪主張は、「受領した物が現金で、選挙運動への報酬と認識していたと認められる」と指摘して退けました。

 公判では、検察側が被告の自白調書の証拠請求を見送ったため、録音データも証拠採用されず、審理はされませんでした。

 

 本件裁判に現れた証拠では、公訴棄却をすることは困難であったかもしれませんが、問題の核心は、隠れた司法取引的な捜査手法がとられ、元市議との約束が安易に裏切られているという事実だと思われます。

 録音データを証拠採用してきちんと審理することが裁判所に求められる使命であったと思われます。

 今回は、2人の検事への指導とのことですが、本件の検察官調べにおいて、不起訴にすることの示唆が行われることは、強制捜査に着手した段階で当然想定されていたことであり、取り調べをした検事らの独断であったとは考えられません。責任を問われるとすれば、取り調べ担当検事個人ではなく、組織そのものと考えられます。

福岡・赤坂の弁護士事務所|熊田法律事務所

所在地:福岡市中央区赤坂1丁目1番5号 鶴田けやきビル5階

連絡先:092-739-5115